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齋藤隆夫にみる真の政治家(7)~粛軍演説~5.15事件

齋藤は、自ら公判を傍聴した5.15事件に、その論点をもっていく。法廷における被告人の態度はきわめて堂々としていて、さすが青年軍人であった。彼らのしたことは、もとより国家社会を思う熱情から来たものであり、内にやましいところは一つもないのだから、それも当然のことだ。しかし、その思想はあまりに単純すぎた。彼らは22,3から30歳に満たない青年であり、軍事に関して一応の修行を積んでいるほかは、政治、外交、経済などについての知識・経験は皆無なのだ。無責任にして誇張的な言論機関の記事や、一部の不平家・陰謀家の言論が、何も知らない彼らを刺激した。今の政党、財閥、支配階級は、ことごとく腐敗堕落している、とか、このままでは国家は滅亡してしまう、とか、これを救うには、大化の改新にならって国家の改造をやるしかない、天皇親政、天皇中心の政治を行うには、軍事内閣を作らねばならぬ、とか。だれかが、今の政治は腐っている!といえば、確かな根拠もないまま、そうだそうだと信じる。ロンドン条約は統帥権の干犯だ!といえば、憲法上どこが統帥権の干犯なのか、よくわからないまま、これを信じる。国家の危機、直接行動のほかない!といえば、なんとなくそんな気がしてくる。青年将校が、革新のプログラムを持たずに、空疎な言論をもてあそんだ末、直接行動に出たのはなぜか。齋藤は、この根拠をわが国の国民性に求めている。「元来わが国民には、外国思想の影響をうけやすい分子がある」デモクラシーの思想がさかんになれば、われわれもデモクラシー。ナチス、ファッショ思想が起これば、またそろってこれに走る。「思想上において国民的自主独立の見識がないことは、お互いに戒めねばならぬことであります」軍事教育を受け、愛国の念に凝り固まった青年たちが、それらの言論をうのみにし、複雑な国家社会に対する認識を誤まったことが事件の大原因なのである、と齋藤はそのように主張した。とてもわかりやすい。 (つづく)

by mako-oma | 2017-05-28 20:10 | 齋藤隆夫 | Trackback | Comments(0)  

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